江戸時代の涼を運ぶ、金魚と金魚玉
こんにちは。ボタンとガラスの店 menofli. 伊藤でございます。
残暑の厳しい日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
本日もガラスのちょっと面白い話をご紹介。
今回は夏にちなんだ、読むとちょっと涼しい気持ちになるお話にしてみました。
目次
夏の風物詩の一つ、金魚
皆さんは夏と言えば何を思い浮かべますか?
太陽、入道雲、アイス、プール…様々あると思いますが、
「金魚」も夏の風物詩といえるかと思います。

金魚鉢の中を優雅に舞う金魚…これぞ日本の夏!ですよね。
金魚すくいで掬った金魚を持ち帰って飼育した経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
ガラス器に水を盛り、金魚を入れる、透徹つたガラスに支えられた水と金魚とが空に浮かぶ、清々しき極みです。
阿部舜吾著『金魚の常識』慶友社、1955
プラスチックやアクリルなど、現在は素材も多様化しているので
ガラスの器で育てた!という方は意外と少ないのではないかと思うのですが、
見た目にも涼しさを感じるのはやはりガラスかなあと個人的には思います。
そんな金魚ですが、さかのぼると江戸時代に金魚の価格が下がったことで一大ブームが起こり大衆化したものと言われています。
江戸時代の金魚事情
江戸の町は「物売りの町」と呼ばれるほど、
道を渡り歩いて物を売る行商人(振り売り)の数が大変多く、その業種も多種多様。
世間の想像通り大変活気のある町だったそうです。
桶を担いで金魚を売る「金魚売り」もその一つ。
夏が近づいた江戸の町を「きんぎょ~」と独特の抑揚とともに売り歩いたそうです。

この金魚売りや風鈴売りの声を聞いて、江戸っ子たちは夏の到来を感じたわけです。
ただし、この時代はまだ金魚を飼育できるほど大きなガラス容器は高級品。陶器製が一般的でした。
(一部の豪商は見栄を張るために超巨大ガラス製容器を作らせたという逸話もあるそうですが…)
陶器製となると自然と金魚を上から見る格好になる為、
金魚は「上から見て美しいかどうか?」が価値基準だったといわれています。
今だと、飼育してしまうと上から見る機会の方が逆に少ないですよね。

金魚すくいの時くらい?
江戸時代も楽しまれていた、「金魚とガラス」
江戸時代、金魚とガラスの関係は「お持ち帰り時」に息づいておりました。
現在はビニール製の巾着に入れてお持ち帰りすることが一般的ですが、
当時はガラス製の小さな器「金魚玉」に金魚を入れて持ち歩いたのだとか。
小さな金魚が1匹入るのがやっと位のミニサイズの器だったそうです…とても可愛らしい…
風鈴のような形をしていて、そのままぶら下げることも可能のようで、とても涼しげで風流ですよね。
(飼育面では全くよろしくないでしょうが)
金魚玉のガラスを通して見るようになって、金魚と人との距離が縮まり、(略)グッと身近な存在になった
鈴木克美著『金魚と日本人 江戸の金魚ブームを探る』三一書房、1997
透明なガラスは見た目の美しさはさることながら、
中身を様々な角度から観察できるようになる「実用性」も兼ね備えた素材。
今や無くてはならない存在ですね。
さて、今回は美術的観点ではなく、実用的な面から見たガラスについてでした。
今度はボタンについても面白い話が書けたらと思います。
次回のブログもお読みいただけたら嬉しいです。
酷暑のピークは過ぎたのでしょうか…
まだまだ油断は禁物ですが、皆様もどうか健康にお過ごしください。
menofli.